映画「父後7日(父の初七日)」(2010年)
以前に観たがYahoo!のGYAO!で無料配信していたので、他のことをやりながら流してチラ見した。
台湾旅行で葬式をやっている前を通ることはあってもそれに関わることは稀なので、葬式の内容や裏側を知ることは難しい。これを観ると道教のしきたりに則った台湾の葬式に関わる習俗を見ることが出来る。「なるほどぉ〜」と感じることが多かった。
何も葬式に関係することばかりでない。中小地方都市で育った人たちの人間関係というか人生が描かれてもいる。さりげない会話の台詞の中に「そうだなぁ」と感じ入る言葉もあった。脚本を書いた人(共同執筆だが)はすごいなと思っていたら、第十二屆台北電影節最佳編劇、第四十七屆金馬獎最佳改編劇本を受賞していた。
誰もが思ったことはあるが、大きな声で言うこともないし記憶もしない、そういう人生のちょっとした隙間にこぼれ落ちたてしまったような言葉を登場人物にさりげなく喋らせて、観るものに強い共感を覚えさせる。
もちろん、劇中の会話は字幕で理解しているのだが、台湾語と中国語の違いをうまく利用されている感じがした。台湾語を母語の一部として使う人たちの感情がストレートに伝わって来るようだ。
台湾という国は、日本が統治した時代に日本語を強制した多言語時代に引き続き、戦後は横滑り的に半ば居座った形の政権が中国語を強制する多言語時代へと、統治者の都合による多言語時代が続いている。個人的には人々が台湾語を話しているのには、それだけに何らかの感情を感じずにはいられない。
話の流れは葬儀までの7日間にドタバタするコメディ要素が基本だ。
物語が進むテンポは実際に人が亡くなった時に感じるそれと似ているような気がした。場所や習慣は違うが私自身の親が亡くなった時、葬式ってこんなにバタバタするものなのかと感じながらも、ふと襲う喪失感。そういうことを思い出させられた(昔のことで細かいことは忘れたけど、笑)。
登場人物は皆ユニークだ。ちょっと突拍子もないんじゃない?と思わせる部分が、こういう葬式だとかすると妙に儀礼的なところばかりが表立つ日本と比べて、台湾の特徴的なある部分を感じるような気もした。
脇役がいい味を出している映画だ。
道士の阿義役を演じた吳朋奉は、生きて行く悲哀と喜びを感じさせる言葉で物語の中に引き込んで行く。もちろん道教の儀式を説明しいる。第47屆金馬獎最佳男配角を獲っている。
阿義のパートナー役の孝女白琴役の張詩盈は第12屆台北電影獎で最佳女配角を受賞。彼女の役どころは、葬儀や社会の慣例の裏側を見せてくれたり、見た目とは必ずしも一致しないひたむきさで、葬式にまつわる物語に生き生きとこの世の側から色付けをしている。
この映画を観て、例えそれが声高に人生の成果を読み上げるような一生ではなかったとしても、それは価値ある人生であって、悪意や妙な企てを持たない生き方は周りの人々の心に残って行くものなのだなと感じさせてくれる。
不遜な言い方かもしれないが、台湾の葬式に行ってみたくなった。