宮脇俊三著「台湾鉄路千公里」
別に私は鉄ちゃんではないが、小さい頃から電車に乗るのが好きだった。
小学校高学年の頃には友だちと時刻表を舐め回すように見ながら、たまに週末の半日くらいを切符を握り締めながら電車に乗り、あたかも大冒険をしているように感じていた。
だからと言って、長じて鉄道マニアになることもなく、移動手段としての鉄道と付き合いながら年を取ってしまった。
頻繁に台湾に通いだす頃には、すでに台湾新幹線が走るようになっていた。鉄路は台湾を一周していた。
著者がこの本を書いた1980年頃、まだ鉄路は今のように台湾を一周していない。台東と枋寮(ファンリャオ)の間は鉄路がない。
花蓮には新駅と旧駅のふたつがあった時代。花蓮港と花蓮駅(旧駅)を結ぶ線がまだあった頃。今は海沿いの遊歩道脇の小さな休憩所にある「米崙」という看板だけが、昔ここに鉄道が走っていたことを人々の記憶に残そうとしている。
今もそうだが、台湾の西側と東側は人口密度や地形の違いもあり、開発の速度が大きく違う。だからこそ風光明媚なところが残されているとも言えるのだが。
この本を読んでいてちょっと気が付いたのが駅名や地名などのルビ。それが中国語発音に準じて書いてあるということ。
昨今の書籍では、日本語漢字読みしているものがほとんどで、現地に行くとこれはもう別ものと思えてしまうし、時にはなかなか抜け出ることが出来ない混乱の深い淵へと落とされてしてしまう。そういう意味で、ルビが中国語発音に準じているとなんだかイメージがすーっと入って来るような気がして心地いい。
今は新幹線や特急列車を使いながら、限られた時間の中で台湾を一周出来る。車窓からここに書かれている昔の景色を今の景色と照らし合わせながら旅するのもいいものじゃないかと思う。