歐吉桑、臺灣を行く

台湾について見たこと、聞いたこと

龍應台著「台湾海峡一九四九」

龍應台著「台湾海峡一九四九」(白水社刊)読了(原題「大江大海一九四九」)。
その読後感。
膨大な時間をかけ、多くの人々の声に耳を傾けて来た著者の誠実な姿勢が隅々に読み取ることが出来た。アジアのこの時代の歴史は横断的に見られることが少ないように思う中、同じ時間軸の中で起こっていたことを多くの視点から見せてくれる。
しばしば、大きな歴史の中で埋もれがちな個々のパーソナルヒストリーが、著者が言う「文学」という糸によってたぐり寄せられ、縒り合わされ、戦いによってごく普通の人々が飲み込まれて行かざるを得なかった、決して埋没することのない悲しみや絶望を著者の文章を通して今に伝えてくれているようだ。
また、同時にドイツという別の視点から比較そして振り返ることで、この荒波に飲まれた人々の人生が個々の体験という出来事で終わることなく、同時代に起こった多くの歴史の中では多くは語られることのなかった深い悲しみを思い起こさせてくれる。
さらに、あとがきに続く増訂版に寄せられた文章を読んでいると、原題の本書を読まれた人々が自分に繋がる上の世代の人、ことに親が乗り越えて来た厳しい時代を今さらながらに思い起こさせてくれた本であったことがしみじみと伝わって来る。そして著者に語ってくれた人々もまた、これから生きる人々への「愛の責任」を思ったから必死に語ったのだろう、著者が自分の息子に対して思ったように。
これから先、私もまたアジアを訪れた時には、眩しい太陽の光の下で優しい木陰を作ってくれる深い緑の中にも、半世紀以上前に同じ太陽の下でひたすら生きようとした人々、あるいはその願い叶わず命を落とした人たちの想いを深く感じるかもしれないと思った。そしてこのような数多くの人々の個々の歴史の上に、今の私たちは生きているのだということをしっかりと心に思うだろう。

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台湾海峡一九四九

台湾海峡一九四九

  • 作者: 龍應台,天野健太郎
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2012/06/22
  • メディア: ハードカバー